やっぱり「テレビは強い」・・・のか?

「たった5秒だったんですけど、友達からメールとか電話とか、めちゃめちゃ来たんですよね」


昨日、日刊・世界の広告クリエイティブの望月さんと、某総合広告代理店勤務のHさん、Nさんとの会食の席にて、お笑い番組でNさんの街頭インタビュー映像が流れたとき、まったく宣伝もしていないのに多くの知人がそれを視聴し、Nさんに連絡をしてきた…という話から、「やっぱりテレビ、マス媒体は強いね」という流れの話になった。
たしかに、多数あるメディア、チャンネルの中の一つのコンテンツで放映された、たった5秒の映像を多くの友人が見ているということは、それだけ多くのひとがテレビを見ていて、それなりに生活に食い込んでいることの表れかも知れない。実際、以前私がテレビに出たときにも友人からもの凄い反応*1があった。


だが、だからといって「テレビが強い」という答えに帰結するかといったら、私はNOだと思う。
30代以上、日本人口の半分以上にとっては、テレビが圧倒的なリーチ力・影響力を持っていることはたしかだ。だが、20代・10代にとっては?グローバル視点で考えたら?YESと言い切れるだろうか。

別に私は4マス媒体の力が弱まってるとか、ネットが万能だとか、むしろ広告は不要だとかは、全く思わない。ただ、「メディア」という概念にとらわれて広告を考えることほど、ナンセンスなものはないと思う。おそらく、現時点でのテレビの強さを過信、迎合し続けたとしたら、広告業界は10年後には淘汰されてしまうだろう。*2



そんなことを考えているとき河野さんのエントリーを読み、目から鱗が落ちた。

まあ言葉の定義とか細かく始めると大変なのですが。

ぼくがやりたいのはコミュニケーション。マーケティングとか、広告とか、広報とか、まあいろいろ近かったり、重なってたりするんだけど、ひとことで言えば「企業と消費者の距離を適正にする」ことです。必ずしもゼロにするわけじゃない。そして、その適正さは伝えたいメッセージを100%届けることができるかどうかです。

(中略)

消費者の声を企業に、企業の声を消費者に、100%の濃厚なまま届けるために何ができるかを考えて、それを実現するのがぼくのやりたいことなのです。
それをコミュニケーション・デザイナーと呼んでいます。

smashmedia 「ぼくがやりたいのはコミュニケーション」

モノも情報も何もかもが溢れかえっている社会において、求められるモノを求めているヒトに、適切に伝えて届けてあげたい。そんなコミュニケーションを設計する仕事がしたい。そう考えて、広告業界を選んだ。
最近メディアの動きが激しすぎて、どうにもそちら側に視点も思考も偏りがちだったのだが、原点は「広告」でも「メディア」でもなく、「コミュニケーション」だったことを思い出させられた。(まだまだ甘いなぁ・・・)


要は、何が言いたいのかというと、メディアを見つめるのではなく、もっと生活者とモノ、企業の方をじっくりと見つめて、コミュニケーションを設計するのに適したビジネスモデルを考えないと厳しいんじゃないか・・・という話。

私のようなバカ者*3が、こんな分かりきったことをblogに書くのは、傲慢きわまりないことだと思う。ただ、Ad Innovetorの織田さんのメッセージにもあったように、「広告業界は変わろうとしていないように見える」限りは、やはりどんなに若輩者であっても、メッセージを発信し続けること自体に意味があると信じて、こうして日々、偉そうにblogを綴っていたりする。

やはり、広告業界(という括りが正しいかは定かではないが)は面白いなぁ・・・と思った夜だった。



※ちなみに、こんなにトゲトゲしいエントリーをアップしてしているが、望月さんたちとの会食は広告を始め話題も多岐にわたり、非常にエキサイティングなものだった。そして、望月さんの人格者っぷりに感服。素晴らしい席に呼んでいただいたことに感謝!

*1:一応SNSの日記には告知はしていたものの、SNSでリンクすらしていない旧友、遠い友人からも多数の連絡があった。まあ、深夜の30分番組で5分以上出ていれば、ヒット率はそれなりにあがるだろうが・・・

*2:明確な根拠となるデータはないが、肌で感じる「なにか」がある以上、私個人はこの問いに向き合っていくべきなのだと思う。

*3:若者はバカ者であるが、そのバカ者が真剣に物事を考えることに意義があるとして、あえてバカ者を名乗りたい。

ライフスタイル・オリエンテッドなコミュニケーション戦略はイノベーションを助長できるかもしれない。

キャズムを超えろ!」の「商品陳列棚を決めずらい商品は売れない...という特性がイノベーションを阻害する」というエントリーが面白かったので、便乗して広告視点からIKEAのSP戦略について考えてみるの巻。


学生時代、某大手飲料メーカーとコンビニエンスストアにおける購買行動研究*1をしていたときのこと。インタビューで「何故この商品を選んだのか」と質問したとき、もともと買うものを決めていた被験者を除き、たいていの被験者は「なんとなく」「気分で」選んだ、と答えていた。広告やPOPに影響されて買った・・・なんて答えは1割も出てこなかった。

2年間にわたる研究で、私個人が出した結論は、「その商品を買ったときの自分の状況(しあわせとか、格好良さとか、そういった漠然とした心理)がイメージできて初めて、ひとはその商品を買う」ということ。
IKEAの陳列方法などは、まさに真髄を付いている。たとえば「こんなシンプルでキッチュなキッチンで暮らしたらどうですか?」と具体的な使用例を提示する。それによって、「あ、こんなキッチンで料理したら、毎日楽しいかもしれない」と、生活者は簡単に状況をイメージすることが可能となり、購買意識を刺激され、巧みにアクションまで誘導されるのだ。


これこそ、広告・・・というか、コミュニケーションの本質ではないだろうか。
どんなに良い商品を作ったとしても、生活者がそのベネフィットをイメージ出来なければ、彼らはその商品を買わないだろう。*2

しかし、イメージを喚起させるためには、絶対条件としてブランド、コンセプトが確立されている必要がある。IKEAが成功しているのだって、そもそもIKEAというブランドが確固たるものとして貫かれているからだ。

つまり、いかに適切に、モノ(とそれを作る企業)と生活者の価値観を擦り合わせをするようなコミュニケーションを設計できるかが、キモなのだと思う。その方法のひとつとして、TVCFがあって、行動ターゲティング広告があって、SP(店頭販促)があるのだろう。何を、いつ、どこで、どのように、生活者に伝え、イメージさせたいかによってメディア*3を選び、コミュニケーションを設計すればいいのだ。


ともすれば、別にひとつの商品・ブランドを売るためだけにひとつのコミュニケーションをとる必要など何もない。「状況」をイメージさせればいいのだから、たとえば清涼飲料水と一緒にそれを入れるためのグラス、さらにはそのあとジョギングするためのウェアとiPod・・・なんて具合に、ライフスタイル(=生活者群)ごとにコミュニケーション戦略を練ってあげればいいのだ。上記エントリーで和蓮和尚が言及しているように、このような広告コミュニケーションは、イノベーションを助長する可能性も秘めているものだ。

ちなみに、IKEA方式の進化系は、「あの人の家にあるこのソファーを買いませんか?」方式だと思う。Web2.0(笑)的に、世界各国みんなのお部屋がショールーム!みたいな。まさに玉石混交のロングテールイノベーションのきっかけには十分なりえるだろう。

*1:具体的に言うと、研究室内に作った模擬店舗で飲料の購買シミュレーション実験を行い、そのときの被験者の眼球運動と行動をビデオで逐一記録した上に、そのビデオを元に購買時の心理フローをインタビューで抽出し、1/30秒単位で眼球運動・行動・心理を同期させて解析する・・・という超ミクロな研究。

*2:ちなみに、このあたりの経験がマチルダ広告業界に身を置く決心をしたキッカケになっていたりする

*3:私は、メディアとはいわゆるTV,雑誌などの媒体だけではなく、店頭も、椅子も、冷蔵庫も、シーツもメディアだと考えている。ひとを取り巻くすべてのものは情報であり、それを伝達しうる機能を持つものは、何でもメディアたりえるのだ。映画の世界みたいだけど、でも、実際そうだと思う今日この頃。