ライフスタイル・オリエンテッドなコミュニケーション戦略はイノベーションを助長できるかもしれない。

キャズムを超えろ!」の「商品陳列棚を決めずらい商品は売れない...という特性がイノベーションを阻害する」というエントリーが面白かったので、便乗して広告視点からIKEAのSP戦略について考えてみるの巻。


学生時代、某大手飲料メーカーとコンビニエンスストアにおける購買行動研究*1をしていたときのこと。インタビューで「何故この商品を選んだのか」と質問したとき、もともと買うものを決めていた被験者を除き、たいていの被験者は「なんとなく」「気分で」選んだ、と答えていた。広告やPOPに影響されて買った・・・なんて答えは1割も出てこなかった。

2年間にわたる研究で、私個人が出した結論は、「その商品を買ったときの自分の状況(しあわせとか、格好良さとか、そういった漠然とした心理)がイメージできて初めて、ひとはその商品を買う」ということ。
IKEAの陳列方法などは、まさに真髄を付いている。たとえば「こんなシンプルでキッチュなキッチンで暮らしたらどうですか?」と具体的な使用例を提示する。それによって、「あ、こんなキッチンで料理したら、毎日楽しいかもしれない」と、生活者は簡単に状況をイメージすることが可能となり、購買意識を刺激され、巧みにアクションまで誘導されるのだ。


これこそ、広告・・・というか、コミュニケーションの本質ではないだろうか。
どんなに良い商品を作ったとしても、生活者がそのベネフィットをイメージ出来なければ、彼らはその商品を買わないだろう。*2

しかし、イメージを喚起させるためには、絶対条件としてブランド、コンセプトが確立されている必要がある。IKEAが成功しているのだって、そもそもIKEAというブランドが確固たるものとして貫かれているからだ。

つまり、いかに適切に、モノ(とそれを作る企業)と生活者の価値観を擦り合わせをするようなコミュニケーションを設計できるかが、キモなのだと思う。その方法のひとつとして、TVCFがあって、行動ターゲティング広告があって、SP(店頭販促)があるのだろう。何を、いつ、どこで、どのように、生活者に伝え、イメージさせたいかによってメディア*3を選び、コミュニケーションを設計すればいいのだ。


ともすれば、別にひとつの商品・ブランドを売るためだけにひとつのコミュニケーションをとる必要など何もない。「状況」をイメージさせればいいのだから、たとえば清涼飲料水と一緒にそれを入れるためのグラス、さらにはそのあとジョギングするためのウェアとiPod・・・なんて具合に、ライフスタイル(=生活者群)ごとにコミュニケーション戦略を練ってあげればいいのだ。上記エントリーで和蓮和尚が言及しているように、このような広告コミュニケーションは、イノベーションを助長する可能性も秘めているものだ。

ちなみに、IKEA方式の進化系は、「あの人の家にあるこのソファーを買いませんか?」方式だと思う。Web2.0(笑)的に、世界各国みんなのお部屋がショールーム!みたいな。まさに玉石混交のロングテールイノベーションのきっかけには十分なりえるだろう。

*1:具体的に言うと、研究室内に作った模擬店舗で飲料の購買シミュレーション実験を行い、そのときの被験者の眼球運動と行動をビデオで逐一記録した上に、そのビデオを元に購買時の心理フローをインタビューで抽出し、1/30秒単位で眼球運動・行動・心理を同期させて解析する・・・という超ミクロな研究。

*2:ちなみに、このあたりの経験がマチルダ広告業界に身を置く決心をしたキッカケになっていたりする

*3:私は、メディアとはいわゆるTV,雑誌などの媒体だけではなく、店頭も、椅子も、冷蔵庫も、シーツもメディアだと考えている。ひとを取り巻くすべてのものは情報であり、それを伝達しうる機能を持つものは、何でもメディアたりえるのだ。映画の世界みたいだけど、でも、実際そうだと思う今日この頃。