ニコ厨と権利者が対等になったとき、はたして権利者は「動画削除申し立て」できるのか?

動画コミュニティサービス「ニコニコ動画」において、社団法人日本映像ソフト協会などの会員が持つ著作権を侵害した動画が削除された。権利者団体の要請に基づくもので、MADと呼ばれる二次創作作品も含まれる。
ニコニコ動画、映画やアニメの二次創作作品を削除へ--日本映像ソフト協会らの要請で -CNET

ニュースが流れてから5日。私のマイリスはいまのところそんなに被害は受けていないので実感はないのだが、実際にニコニコ動画から大量にMADが削除されているらしく、下記のように動画でデモ活動も行われている。
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また、先日の「ニコニコ大会議2008」の質疑応答コーナーでMAD削除問題を指摘した女性が「MAD美人」として君臨してしまう事件が起きたりと、まあ世の中のニコ厨の関心は「MAD削除反対!MADマンセー!」のようである。かくいう私もいちニコ厨、MADファンとして悲しく思うのと同時に、コンテンツ業界のイノベーションスピードがますます落ちる(むしろ衰退する)のでは…とビジネス視点で一抹の不安も覚えていた。


しかし、動画削除の仕様変更ニュースを見て、少し観点が変わった。
おそらく、いままで以上に権利者は動画削除申し立てをしづらくなるのではないかと、私は思う。

ニコニコユーザーの皆様へお知らせです。

動画削除時の仕様について、要望掲示板などで様々な要望を頂いておりましたが、『権利者申し立てによる動画削除の場合、権利者名を表示する機能』を、7月5日午後に実装を予定しています。
動画削除時の仕様変更について −ニコニコニュース

つまり、ニコ厨にとっての「悪者(権利者・削除申立者)」が明文化されるようになり、ユーザーと権利者が対等の立場になったということである。

いままでは動画が削除されても、誰のせいで削除されたかは分からなかった。ユーザーは「くそーカスラックめ!」「Fテレビめ!」なーんて騒ぎつつも、実際に削除申し立てをした権利者を特定することは不可能であったため怒りをぶつける対象が定まらず、負のエネルギーはなんとなく拡散されていたと思われる。
しかし、今回の仕様変更により権利者名が明文化されれば、ユーザーが負のエネルギーをぶつける対象は特定されるため、削除申し立てをした権利者はその攻撃をダイレクトに受けることになるだろう。

たしかにコンテンツの権利を持っているのは権利者であり、権利者がコンテンツを作らない限りユーザーはそれを享受できずに不利益を被ることになるが、その一方で、ユーザーが見て・利用してくれなければコンテンツ権利者は「商売あがったり」状態になるのではないだろうか。


己の利権を死守してユーザーの反感を買うのと、己の権利を多少捨ててもユーザーの支持を維持するのと、どちらが中長期的に見て収益性と革新性が高いのだろうか。
もちろん、悪意のあるコンテンツ利用は制裁すべきではあるが、なんでもかんでも勝手に使ったら削除!という姿勢はいかがなものだろうか。各権利者は、コンテンツ利用者の意図と、その波及効果、期待される利益、そしてイノベーションの可能性などを正しく見極めた上で行動したほうが賢いのではないだろうか。


ニコニコ動画に限っていうなら、

…ってモデルがしっくりくると個人的には考えているのだが、いかがなものだろう。
そうすれば、グレーな部分がクリアになって二次創作市場も盛り上がるだろうし、二次創作市場が盛り上がればコンテンツ市場も盛り上がるだろうし、それなりにwin-winだと思うのだが。


まあ、これは比較的偏ったコンテンツ産業(二次創作による市場拡大が見込めるもの)に限ったモデルなので、全てのコンテンツ産業に当てはまるとは言わない。しかし、根本に流れる思想は全ての産業に適応できるものではないだろうか。